痕 「あれ、律。…蚊に食われてる」 「…どこだ?」 「ここ」 耳の斜め下あたりの首筋を指さされ、触れてみた律は肩をすくめた。気付かなかったが確 かに、小さなふくらみがあってかすかにむずがゆい。 見つけた大地がくくっと笑う。 「…?」 「いや、そういうところにうっかりキスマークつけて、虫さされだとごまかすって話を聞 いたことがあるけど、実際にそこに虫さされがあると何というか」 「キスマークをつけたくなる?」 「……」 大地は小さく絶句して、 「…あおらないでくれよ」 呻いた。 「…つけていいのか?」 「俺は一向かまわないが」 「虫さされでごまかすから?」 「ああ」 はあ、と深いため息。 「……残念ながら俺は、そういうところに痕を残して俺の所有物だと見せびらかす趣味は ないよ」 「そうか」 これがかなりきわどい話なのだということを理解しているのかいないのか、終始けろりと している律に、大地は眉を寄せて、それでも笑った。 「でも、律が許してくれるなら、キスはしたい」 言うが早いか抱き寄せられて、かみつくような荒々しい口づけが律を襲う。 大地のうなじに腕を絡めて口づけに応えながら律は、このキスが痕を残して唇から消えな ければいいのに、と、……ふと思った。