ひよこ

「ホームセンターのペットコーナーにひよこがいたの」
週に一度はホームセンターに立ち寄り、動物たちの動向をチェックしている千尋が言った。
ソファでだらしなく寝転がっていた那岐が、あくびしながら半目になって千尋を見る。
「縁日の夜店じゃあるまいし、なんでペットショップでひよこなんか」
「さあ」
千尋も首をかしげる。
「レアなニワトリに育つとか」
「何だよ、レアなニワトリって」
「羽根が赤いとか黒いとか、…あ、頭が丸くて黄色いとか」
「それ、まんまひよこじゃん…」
がくりと那岐は肩を落とした。
「成長しないひよこかよ」
「レアでしょ?」
千尋は笑ってから、
「ひよこが育って那岐になったら可愛いよね」
「鳥類か僕は!…てか、丸くて黄色いものをなんでも僕にするのやめてくれない!?」
「…にぎやかだな」
ひょこんと忍人が顔を覗かせた。
「何の話だ?」
「黄色くて丸いっていったら何を連想するかって話」
千尋はけろりと言った。
「お兄ちゃんなら何?」
「…そうだな」
腕組みをして少し天井を見た忍人は、さほど悩みもせずにつらつらと上げ始めた。
「タンポポ。満月。テニスボール。グレープフルーツ。……ヒヨコ」
…と言いながら、なぜか視線が那岐に向く。
「だーかーら、人をひよこ扱いするなー!」
那岐がわめいたとたん、忍人と千尋が同時にはじけるように笑い出した。
クッションに顔を埋めて一人いじけたふりをする那岐も、隠した口元は笑っている。
特別なことなんか何もいらない。
みんなで笑える、…それが僕らの、何よりの幸せ。