カナリア

千尋が、どうしても見せたいものがある、というので、ホームセンターに行った。
目的地はペットコーナーらしくて、風早が少し眉をひそめたが、千尋は先手を打って、
「今日は飼いたいって言わないから!」
と言った。
「ほらほら、これ」
指したのは一羽のカナリアだ。レモンカナリア、と名札がついている。本当に混じりけの
ない、きれいな黄色をしている。
ぼんやりそんなことを観察していると、千尋が突然、
「那岐に似てない?」
…と言いはなった。
「……は?」
ぽかん、と口を開ける。…背後で、忍人か風早のどちらかが、ぷっ、と吹き出した。
振り返ってじろりと睨む。目をそらしたのは忍人の方だったから、どうやら笑ったのは忍
人だ。
「どこが似てるんだよ!」
人目を気にして、声を抑えつつ千尋に怒鳴ると、
「頭が丸くて黄色いところ」
けろりと言われた。
背後でまたぷぷっと吹き出している。今度は二重唱だ。振り返ったら、二人とも目をそら
した。
「頭が丸くて黄色かったら僕って、なんだよそれ!じゃあひよこも僕?」
「うん」
もはや振り返らなくても、後ろの二人が声を殺して爆笑しているのがわかる。
「あ、でも、ひよこだとちょっと体型が丸すぎる。やっぱりこの子でなくちゃ」
千尋は既にこの子呼ばわりだ。
「スマートで、でも頭が丸くて、真っ黄色なの。もう、絶対那岐」
「……」
もう言い返す気にもならない。どうせ後ろの連中だって、笑いすぎて声も出ないみたいだ
し。
「この子、売れないといいなあ」
店員が近くにいないのをいいことに、千尋がさりげなく問題発言をしている。
「なんで」
「だって那岐みたいでかわいいんだもん。売れたら会えなくなるじゃない」
少し唇をとがらせて、千尋は雀鳴きをしてみせる。カナリアが張り合うように、きれいな
声で歌い出した。
飼おうよ、と言えない僕らは、カナリアの代わりのように黙り込む。
…千尋は覚えていないけれど、僕らはいずれ豊葦原に帰らなければならない。だから、生
き物を飼うことは出来ない。彼らの命への責任を、全うすることが出来ないから。
「……売れないといいですね」
風早が少し苦しそうな声でつぶやいた。