金魚市 僕らの住む町からさほど離れていない神社で金魚市が開かれることを千尋が聞き込んでき た。千尋は鳥でも犬猫でも動物なら何でも好きだし、珍しく風早もその日はバイトの都合 が空いたというので、四人で繰り出すことにした。 「…うわ、いっぱいいる…!」 千尋が声を上げた。 祭りの夜店のように境内を区切って、たくさんの水槽や金魚鉢が並んでいる。中には巨大 な洗面器のような容れ物もあるが、中身はとにかく金魚、金魚、金魚だ。 「ずいぶん種類があるものだな」 忍人が嘆息する。僕はしみじみと値札と金魚を見比べて、 「結構変なやつもいるけど、そういう変なのに限って値段が高いのは何故だと思う?」 「そりゃあ、外見が変ってことは珍しい…イコール希少価値が高いってことなんだろうか らねえ」 風早がまっとうなことを言ってから、…しかし、と腕を組んだ。 「…結局、一番美味しいのはどれなんだろう」 「・・・・。は?」 「え、食べちゃうの!?」 千尋が真顔で青ざめる。 「そんなわけないだろ千尋、風早も適当なこと言ってないで…」 言いかけた僕の言葉を遮ったのは忍人で、 「食べないのか?」 「………」 真顔が怖い。 風早は怖いことを言いながらも口元が笑っているので、冗談なんだろうとわかるけど、忍 人はどこまでも真面目だ。 「…あのさ、忍人」 本気なのか、冗談なのか、どう聞けばいいのかわからなくてとりあえず呼びかけてみる。 すると、 「これだけいるんだ。もちろん食べるんだろう」 …と返された。 「……」 「……」 千尋と僕が絶句していると、…忍人は大真面目な顔のままぽつりとこう言った。 「………冗談だ」 ………。 「冗談ならもうちょっと冗談らしい顔で言えー!!!」 …僕がぶち切れたのは言うまでもない。 …普段はそうでもないのに、風早の冗談に乗っかるときの忍人の冗談はいつもたちが悪い、 ………と思う。