身代わり


「君以外にできる人はいないんですよ」
「断る」
「ですが、君が助けてくれなければ、あの方がお困りになるんです」
「………それでもいやだ」
なにやら柊と忍人が言い争っている気配だ。風早は首をひねりながら顔をのぞかせた。
「…何をしているんです?」
「ああ、風早」
「風早!」
にっこり微笑んで振り返る柊と、心なしか半泣きの忍人。
「……な、なんですか」
「助けてください」
「助けてくれ!」
…言葉がハモっている。
「……いったい」
なんですか、と聞く前に柊がつらつらと話し始める。
「一ノ姫の脱走が周りにばれはじめたので、身代わりを置こうと思うんですが、忍人が承
知してくれなくて」
「女装して姫の身代わりなどできるか!」
・・・・・・・。
「なぜです。背格好といい、髪の色、瞳の色といい、その愛らしさといい、君以外に姫の
身代わりになれる人はいませんよ」
「なんだその最後の理由は!気持ち悪い!それはともかく、絶対嫌だ!!」
・・・・・・・。
ぱったん、と風早は扉を閉じ、部屋から出た。
「おや、風早が逃げた」
「風早!!」
…こういうとき、大陸の方では、君子危うきに近寄らずというんですよ、忍人。今度教え
てあげましょうね。
と、心の中でつぶやきつつ、さっさと逃げる風早であった。