君の声は蜜のように甘い 律はするりとベッドから抜けだして、カーテンを開けた。 まだ朝の五時過ぎだが、既に鮮烈な朝の光がガラスを通して差し込んでくる。…六月の朝 は早い。 律が抜けだしたあとのベッドで、大地がゆるりと寝返りを打った。 「……まぶしい……」 「…起きたか」 「…。…起きた、というか、起こされたというか」 寝乱れた頭もそのままに、大地は怠惰な格好でベッドに肘をついた。 「今何時だい?」 「五時だな」 さらりと返した律の言葉に、大地はがくりとうなだれた。 「…早起きすぎるよ、律…」 「早朝から犬の散歩に行く大地に言われたくはない」 律は苦笑で首をすくめた。 「それに、今日は金星の太陽面通過を見るんだろう?早めに朝の支度をして、ゆっくりと 観察した方がいいんじゃないのか?一緒にそれを見るためにわざわざ俺の部屋に泊まりに 来たんだし」 「……。……ああ…」 大地はどこか気怠いため息とともに小さくうなった。 「…忘れてたよ、そんな言い訳」 「…言い訳?」 「…律の誕生日を朝から晩まで一緒に過ごしたいから、前の晩から部屋に泊めてほしい、 なんて。…言えるわけないだろう?」 びくりと震えた律の肩を、大地は見ただろうか。…表情は変わらない。変わらないけれど。 「…今、言ってる」 気付かれたかもしれない。…そう思いながらも、律は必死に平静を装い、冷静に指摘する。 「…あ。…そうだな、本当だ」 ……寝ぼけてると、何でも言えるもんだな、と、大地はくすくす笑う。…どこまで本気な のか、律の反応に気付いているのか気付いていないのか、さっぱりわからない。……けれ ど、ゆったりと気怠げに話す大地の声を聞いていると、昨夜彼の指先が触れた箇所がまた じわりと熱を持ってくるような気がして。 「……」 律はそっと唇を噛んだ。 …律の変化を見透かすように、…大地は低く、そしてひどく甘い声で誘った。 「……カーテンを、閉めて?」 「……っ」 「太陽面通過開始は、七時過ぎからだ。まだあと二時間はある。…もう少しだけ、夜の中 にいようよ、律」 声にしびれた。 操られるようにふらふらとカーテンを閉めると、おいで、と背後から囁く誘惑の声。 振り返ると大地が笑っている。…その腕の中へそっと倒れ込むと、大地はうれしそうに喉 を鳴らして笑った。 「…ああ、今日はいい日だ…」 頬を撫でる指が、そっと律の眼鏡を奪う。ぼやける視界が、律の意識を、目覚めの岸から まどろみの淵の中へと引き戻す。 与えられる口づけを味わい、大地の声に酔い、…触覚も視覚も嗅覚も、五感の全てを大地 に支配されて、そのどれもがひどく甘くて。つま先から髪の一筋に至るまで、はちみつの ようにとろとろととろけていくような気がして、律はたまらず、大地の背に腕を回し、す がった。 そのたくましい背は確かにそこにあったけれど、体がとろけていくような感覚を押しとど める助けには残念ながらならなかった。