●ごほうびのロリポップ● 病院から出てきた蓬生は、棒付きの飴をなめていた。 「…何だそれは」 待っていた千秋は思わず口走ったが、 「飴。いっつもくれはんねん」 と蓬生は涼しい顔だ。 「…それは普通、子供の患者がもらう物じゃないのか」 「子供の頃から見てもうてるから、先生、俺がでっかなってん気ぃついてはらへんのちゃ うか。診察終わったらいっつも、ほい、や」 「そんなでかい図体に気付かんわけがあるか。…お前もそれを受け取って、しかも早速な めるなよ」 「けど、これ楽やねん。そこそこカロリーとれるし、噛まんでいいし」 夏場は確実に食欲が落ちる蓬生が言うと、妙な現実味がある。もしかしたらそれを見越し て老医師も渡しているのかと、勘ぐりたくなってしまうほど。 千秋が返答せずにいると、蓬生がやんわり笑った。 「…そんな顔、せんといて、千秋」 どんな顔だ、と言い返そうと思ったが、蓬生に目を細めて見つめられ、千秋は何となく言 葉を呑み込んだ。 「…せっかく、元気や、て先生のお墨付きもろてきたんやで。一緒に横浜行って、優勝や。 ……な?」 「……ああ」 うなずいて、千秋は少し蓬生の髪を撫でた。うなじにかかる手を何気なく指でなぞるよう に払ってやると、 「千秋の手ぇて、エロいことしてへん時でもエロいな」 蓬生はほんのり耳朶を赤くして、ぼそりとつぶやいた。