●ゲームの時間●


これはゲームだ。期間限定の、欺瞞と劣情に満ちたお遊びだ。俺も彼も、相手への真摯さ
など持ち合わせていない。ただ、欲望のおもむくままに肌を重ね、時間を共有するだけ。
むなしく、非生産的な関係だ。
…けれど、それがわかっていてもなお、俺はまた深夜、君がくつろぐこのソファの前に立
つ。
本に目を落としていた君は気配に顔を上げ、微笑んで、
「来たん」
と言いながらゆっくり本を閉じた。
「……ええよ。…おいで」
本が床に落ちる。俺は君のうなじに手を伸ばし、髪をかき上げてえり足に触れ、身をかが
めてそっと口づける。
寮の塔の小部屋にこのソファがあり、しかも誰もこんなところまで足を運ばないと、知っ
ていて君にここを教えたのは俺。そしてある夜、携帯で俺をここへ呼び出し、艶然と笑っ
て「遊ぼ」と誘いをかけたのは君。

…ゲームを始めたのは、俺か、君か。

ちらりとそんなことが頭をよぎったが、俺はすぐにそれを片隅に追いやり、君をむさぼる
ことに溺れる。
ふれるたび、かわすたび、…ゲームの時間が終わりに近づいていくのだと知りながら。