●赤い花●


「ごっつい、夾竹桃」
感嘆の吐息をもらして蓬生が足を止めたのは神社の前だった。
神域に普通夾竹桃はあまり見かけないが、種でもこぼれて根付いたものか、一本だけ見事
な夾竹桃が赤い花を咲かせていた。
しかし、千秋はその色の毒々しさに眉をひそめる。
白や濃桃の夾竹桃はよく見かけるが、ここの夾竹桃は赤、それも鮮血のような赤だった。
真昼の白い光の下、全てが白茶けて見える中に、黒々と、赤。
蓬生は魅入られたように花を見つめて動かない。千秋はきっかり三分待った。…そしてお
もむろに、自分より高いところにある幼なじみの頭を、ぐいと腕で押さえ込むようにして
自分の方に向けさせる。
「痛っ。…何や千秋、いきなり」
「もう花は見なくていい。お前、俺だけ見てろ」
「何なん千秋。…花にやきもちか?」
くすくすと蓬生が笑うので、阿呆か、と千秋は軽蔑のため息を吐いた。
「俺以上にお前から愛されるものなんて、この世に存在するわけがない。花なんぞ論外だ。
妬くか」
「……」
蓬生は目を丸くして、ははっと笑う。
「さすがやなあ、千秋。俺も言うてみたいわ、千秋の一番は絶対俺やって」
「言えばいい」
千秋はきっぱり言って、尊大に笑んだ。
赤い夾竹桃が、はらりと一輪、花を散らす。道に落ちたその赤は、したたる血痕のようだ
った。