●チョコレートの口づけを●


「……つまみ……。……まあ、これでもええか」
冷蔵庫を覗いて何かぶつぶつ言っていた蓬生が取りだした物を見て、大地は思わずぐれそ
うになった。
「…俺が嫌いなのを知ってて、これを選ぶのか、土岐……」
蓬生が取りだしたものはチョコレート、しかもご丁寧なことに大地が一番苦手なホワイト
チョコだ。
「他に何もないんやもん。…ええやん、ウィスキーにチョコレートは相場やろ」
蓬生はそう言って、手に持った洋酒の瓶をかかげてみせた。が、大地のしかめっ面があま
り変化しないのを見てくすりと笑い、酒瓶を持っていない方の手と歯で器用に板チョコの
銀紙をむく。
さっそくかよ、と大地が呆れていると、白い歯がぱきりとチョコを割り、そのまま唇にく
わえた。
「……っ」
顔が間近に迫って大地が慌てるよりも素早く、蓬生は口づけと共にねっとりした甘さを押
し込んできた。そのまま唇に口蓋を蹂躙されて、むせることもままならない。
「……う…」
大地が苦しげに呻くまで、散々その唇を味わってから、蓬生は離れた。唇をぺろりとなめ
る仕草がいかにも舌なめずりする猫のようで、大地の背中をぞくぞくっと何かがはいのぼ
る。
「……うまかった、やろ?」
呆然として返事も出来ない大地に、いろんな意味で、と付け加え、蓬生は笑う。
深夜のキッチンはねっとりと甘く重い、酒と菓子の香りがした。