●ひばり●


列車は少し遅れているようだ。

もともと、一時間に一本か二本、あるかないかのダイヤだ。
那岐は待ちくたびれてしまって、ベンチに座って本を読む忍人の肩を枕に惰眠を貪ってい
る。
千尋はぼんやりとホームの端で、つばの広い白い帽子を押さえながら来ない列車を待って
いて、風早は眼鏡をかけて黙々と、数字パズルに熱中している。
昼の駅は全てが眠っているようだ。ホームも、線路も、駅舎の屋根も、線路脇の名もない
草花も。
どこかでひばりが鳴いている。

……列車は、まだ来ない。