●邪推● 深夜の浴室で、大地はあごまで湯につかってぼんやり物思いに耽っていた。 「……」 風呂に入る直前、夏休みに神戸に行く件で蓬生に電話した。するすると予定は決まって、 ……それは良かったのだが、用件以外のことで気になったことがあって。 電話の後ろで一度だけ、なあ、蓬生、と誰かが声を上げたのだ。 蓬生はしっ、とそれを制し、何でもなかったように大地との電話を続けたが。 −…東金の声だった、よな。 深夜に蓬生が東金と一緒にいたことよりも、蓬生が東金が側にいることを大地に知られま いとしたことの方が気にかかって、……いらぬ邪推をしてしまう。 「……はは、みっともない。……今更あの二人に妬いてどうするんだ、俺は」 口ではそう強がるものの、心は焙煎しすぎたコーヒーを飲んだときのように焦げ臭く、苦 不味く。 「……」 ぶくぶくと鼻の上まで湯に沈んで息を止める。……やるせない思いの持って行き場はなく、 ただ自分を痛めつけるばかり。