●ノーザンクロス● すっかり夜も更けた寮への帰り道、隣を歩いていた蓬生が不意に足を止めたので、つられ て大地も足を止めた。 「…どうした?」 「いや。…ちっこいけど、これも教会なんかな」 「…ああ、そうだね」 そのこじんまりした教会は、周りに塀をめぐらせてはいたものの、祈る人への配慮だろう か、門は開いていた。 「…」 それを見て、蓬生が不意に中へ入っていった。慌てたのは大地だ。 「…っ、おい、土岐?いきなりどうしたんだ、酔ってるのか?」 「ビール一缶で酔えへんわ」 苦笑が返る。 「ちょっと確かめとうて」 「…確かめる?」 「ああほら、やっぱり」 教会の建物の前で立ち止まり、夜空を見上げて蓬生は妙に満足げな顔をした。 「…やっぱり?」 「榊くんもこっち来て見てみ。屋根の上の十字架に、星の十字架が重なって見える」 言われて見上げてはっとした。 ノーザンクロス、北十字、とも呼ばれる、翼を広げた鳥の星座が、土岐の言うとおり教会 の十字架に重なっている。星座の方が大きいので、十字架が十字架を抱擁しているように も見えた。 大地に声をかけたきり空を見上げて動かない横顔は、白く整って綺麗だった。ゆるりと手 を伸ばし、眉をひそめられることを承知で背中からそっと抱きしめると、 「…神様が見てるで」 たしなめるように言いながら、蓬生もそれを許した。 星のまたたきが聞こえそうなほど、教会の庭は静まりかえっている。 じわじわと残る暑さを知らぬようなどこかひやりとした肌に、自分の熱を移したいと願う、 深夜。