●いとわない●


深夜、大地の部屋に二人で帰ってきた蓬生は、キッチンでコーヒーを飲みながらまじまじ
と居室を見て言った。
「…思ててんけど、一人暮らしのマンションに、いくらちっこいとはいえソファて、邪魔
やないん?」
「……まあ確かに、ベッドを入れてソファを置くとぎりぎりなんだけどね。…一目惚れし
て買っちゃったんだよ。傷物なんだけど、座り心地はもちろん、布といい、木の色合いと
いい、好みでさ」
「……ふうん」
蓬生はテーブルを離れ、ソファに腰かけてみた。
…なるほど、深く腰かけても沈み込みすぎない、クッションの効いたベンチのような感覚
が、ソファらしくなくて心地良い。
「…意外やな」
「何が」
大地は怪訝そうだ。
「君は完璧主義で潔癖やから、傷もんには手を出さんかと」
「……。…俺はしつこい性格だからね。気に入ったものをことごとく追いかけるタイプな
んだよ。…それがいいものなら、障害も傷もいとわない」
「……」
蓬生はちらりと大地を見上げた。
「…何や、含んどう?」
「別に」
「嘘つき」
蓬生は嗤い、ソファの上にしどけなく身体を倒して、片手を大地にさしのべた。
「…見てんと、来てや」
「……」
大地は、何とも言えない、むずがゆい、という顔をして、素直にその誘いに応じ、蓬生の
上に覆い被さるようにして、その身体を抱きしめた。
「……いいものだね」
「……何が」
「君がそこにいると、ソファがよく映えるよ」
「……。……柄でもないセリフ吐くんやめてや。…背中かゆなるわ」
蓬生の辛辣な一言に、苦笑がこぼれた。
「……雰囲気ぶちこわすなあ……」
「どっちがや。来て、言うてんのに、焦らしてんはそっちやろ……」
吐息が頬にかかり、土岐の唇が大地の口角をかすめる。
「…俺の気が変わっても、知らんで」
大地は笑って、もうそれ以上余計なことは何も言わなかった。