●隠れ家●

菩提樹寮に泊まった翌朝、どうしても見せたいものがあると律に早朝たたき起こされた。
…連れてこられたのは、屋根と屋根の間に挟まれた、隠れ家のような小さな屋上だ。サン
ルームの上にあたるという。寮生が物干しに使っているらしく、ぽつんと物干し台が置い
てある。
「こんなところがあったんだ」
驚く俺に、律は少し得意げに笑っている。
「塔は鍵が掛かっていて入れないが、ここはいつでも出入りできる。ここから見る朝焼け
が好きなんだ。今日は雨になりそうだから、きっときれいだと思って」
茜色、藤色。…朝焼けの色は夕焼けと違って橙よりも青みや紫の色がかっている。楽しそ
うに見つめる律の頬も唇も、同じ色に染まって美しく、大地は少し目のやり場に困った。
「…本当にきれいな朝焼けだな。…でも、雨?」
「ああ、雨になると思う」
「困ったな、傘を持ってない」
「俺の傘が一本あるから、よければ使ってくれ」
「一緒に出かけるのに、それじゃあ律が困……」
言い返しかけて、ふと、大地は目を悪戯っぽくきらめかせる。
「……ああ、困らないか」
「…?」
「愛し合う二人なら、傘は一本でいい。…そういうこと?」
「…っ!」
瞬間、律の顔が明らかに朝焼けの反射とは少し違う色に染まる。
「ち、ちがっ…。…俺は響也に借りればいいからと、そういうつもりで」
「…相合い傘しようよ、律」
「………っ」
何か言いたいのに言葉が出ない。そんな律を大地は余裕の笑みでのぞき込んで。
「…駄目?」
耳元で囁くと、律は簡単におちた。
「……わかった」
蚊の鳴くような声がかわいくて、思い切り抱きしめる。赤く染まる耳も頬も、朝焼けの色
よりずっときれいだと思いながら。