●去らない熱● バーベキュー大会は大騒ぎだった。火積の父親は本当に大量に肉を送ってくれたようで、 二けたにのぼる男子高校生の腹を満たしてなおまだ鉄板の上に料理は残っているようだ。 しかし、肉だ肉だと騒いでいた響也や新もさすがに落ち着いて、どこからか調達してきた らしいアイスをなめ始めた。逆に、ずっと遠慮気味だった至誠館の二年生二人は何となく ほっとした顔で、同じく遠慮がちだった八木沢や芹沢も交えて和気藹々と、残った野菜や 肉をのんびり焼いている。 焼きそばの前にずっと陣取っていた大地も、ようやく庭の片隅に腰を下ろした。ゆっくり と自分で作った焼きそばを口に運びながら庭を見渡す。何か新を叱っているハル、いつの 間にか現れたニアと楽しそうに話しているかなでを見て、おや、と思う。 −…律は? 答えは頭上から降ってきた。 「お疲れ」 見上げると、背後にコップを持った律が立っていて、目を優しく細めて笑っている。つら れて大地の頬もほころんだ。 「隣に座ってもいいか」 「もちろん。…律は何か食べないのか?…取ってこようか」 「いや、もう十分だ。…食べ過ぎたくらいだ」 そう言ってコップを揺らす。…琥珀色の液体の中で、カラン、と、氷が涼しい音を立てた。 ふと、大地は鼻をうごめかす。 「…珍しいな、律。……宗旨替えか、それとも浮気?」 「…何の話だ」 「コップの中身。…色は似てるけど、それ、麦茶じゃなくてコーヒーだろう?」 昼間ならもっとはっきり違いが際だっただろうが、夜の庭は暗くて、最初ぱっと見ただけ ではわからなかった。だがまじまじと見ると明らかにそれは麦茶の色の薄さではない。 律はくすっと笑った。 「別に浮気はしていないさ。自分で飲むなら麦茶を入れてくる。…台所で土岐がアイスコ ーヒーを作っていたから、大地にもと思って一杯もらってきた」 よければ、と差し出されたコップ。 「…ありがとう」 受け取ると、また氷がカランと鳴った。水滴を浮かべて、コップはひいやりと冷たい。 うれしさでほてる頬に、大地はそっとコップを押し当て、目を閉じた。 隣には君の熱。……去らない熱。