●午睡●


プラネタリウムに誘ったのはある目的からだった。蓬生の提案に、プラネタリウムなんて
子供の頃の社会見学以来だと、大地は少し驚いた顔をしたが、
「夕食まで時間つぶすんにちょうどええやろ」
蓬生がそう言うと、そうだなと素直にうなずいた。

平日の夕方という中途半端な時間だったからだろうか、プラネタリウムは意外と空いてい
た。吸音性の高いプラネタリウムの床は足音を消してしまって、後ろから大地がついてき
ているのかどうかわからない。だが適当に席を選んで振り返ると、大地はちゃんと後ろに
いて、おとなしく蓬生の隣に腰掛けた。
照明が落とされ、プラネタリウムのプログラムが始まる。耳に心地いい音楽と、ライブの
解説。素朴で訥々とした語りは眠気を誘う。隣をそっとうかがうと、案の定大地は必死に
睡魔と戦っている様子だった。うっすら笑って、蓬生は囁く。
「…寝てええで。…好きにし」
「…せっかく誘ってくれたのに」
ひそひそと大地が耳打ちを返す。
「疲れてるんやろ。…会うた時からそういう顔やった。君が休むんにちょうどええかと思
ってプラネタリウムに誘ったんや」
肘掛けに置かれた手にそっと指をからめる。
「寝とくん、今のうちやで。……今日の夜は、休ませたる気、ないし」
「…っ」
闇の中では大地の顔色は窺えない。だが、一瞬飲み込んだ息の音とうつむいたうなじの角
度で、彼がこらえている感情はおおよそ見当がついた。
「…眠気が、飛んだ」
うつむいたままぼそりつぶやかれた言葉がかわいくて、蓬生は闇の中、声を殺して笑った。