●明けの明星●


電車を見送ってしまうと、早朝の駅には大地が一人取り残された。
ため息ついて見上げた空に、明けの明星。
輝く光に彼を思う。
思っても想っても、叶うはずのない片思いと頭ではわかっているのに、ままならぬ恋心は
募る一方で、一人になると、唇からはため息ばかりこぼれる。
交わした会話のつたなさへの後悔。次に会えるまでの時間の長さを思う憂鬱。
「…律」
彼に恋するのは星に恋するようなものだろうか。高みで輝き続ける光を手に取りたいと願
うような、途方もなく愚かなことだろうか。
「…?」
そのとき、大地の携帯が鳴った。
「…っ!」
慌てて開くと、それは今さっき別れたばかりの律からのメールで。

<見送りありがとう。言い忘れていましたが、二日に戻ります>

「……」
大地は小さく笑った。いつもは、「だ」と言い切って話す律が、何故かですます調でメー
ルを書いているおかしさと、帰る日を教えてくれたうれしさに。

−ねえ、律。…君も、たった今別れたばかりなのに、もう俺に会いたいと思ってくれてい
ると、少しだけうぬぼれても、いいかな。

<知らせてくれてありがとう。よい正月を>

短く返信して、大地は弾む心で携帯を閉じた。
二日になったらもう一度メールしよう。
…何時の電車で着くんだい。迎えに行くよ、…と。