●渇く。●


朝早くに目が覚めた。ホテルの部屋というのは、どうしてこうも乾燥するのだろう。傍ら
で身体を丸めて眠る蓬生を起こさないようにそっとベッドを抜け出して、ペットボトルの
ぬるい水を一口飲む。
「…ん」
身じろぐ気配がした。
振り返ると、丸まっていた身体をゆるりと返した蓬生が天井を見上げていた。
「…悪い、起こしたかな。…何か飲む?」
「……ビール」
天井を見上げたままぽつりとつぶやかれて、大地は苦笑した。
「残念、水かお茶しかない。水はぬるくてお茶は冷蔵庫の中。…どっちがいい?」
「…どっちでもええけど、身体動かすんだるい」
「…っ」
大地が小さく息を呑むと、真上を見上げていた蓬生がゆるりと大地を見た。…皆まで言わ
せるな、という目だった。
「…」
大地はぬるい水を口に含み、ベッドに手をついて蓬生の上にかがみ込む。
口移しに水を与える行為はすぐに噛み付くような口づけに変わり、大地の手からごとんと
落ちたペットボトルが、水をこぼして床を濡らした。