●恋という名の熱●


友情はさめないけれど、恋はさめる。…それがゲームから始まったものなら、なおのこと。

大地は、港に近い遊歩道をモモと一緒に歩いていた。これというあてのない散歩は、つい
ついいらぬ物思いを引き寄せる。

−…今、もし携帯を変えて、何も連絡をしなければ、簡単に切れるんだろうな、俺たち。

元々、去る者は追わないと宣言している彼だ。誰かに問うてまで連絡をつけることはしな
いだろう。ああ、そうかとあきらめて、きっとそれきり。

−…俺は、それを望む、だろうか?

ぼんやりと足を止めた。先に行きかけたモモが、リードがある一定のところで引っ張られ
て前に進めなくなり、何事ですかと戻ってくる。
「ごめん。何でもないよ」
しゃがんでその頭を撫でてやったとき、携帯が鳴った。
「…?」
サブウィンドウに浮かぶ名前に、大地は少しぎくりとする。……何故、このタイミングで。
まるで、自分の余計な物思いを、遠く離れた地で読んだかのように。
「……もしもし。……土岐?」
「…もしもし」
大地が少し驚いた声になるのは当然だが、何故か電話の向こうの土岐も、少しいぶかるよ
うな声を出していて。
「…どうかした?…何か、声が変だけど」
思わず問うた。
「…ん。……んー。……笑わん?」
「笑わないよ」
「…何か、…何やしらん急に、今、榊くんに電話せなって思てん」
……っ!
「ごめん。別に何も用事ないねん。…声が聞きたかった。…今、何しとう?」
「…。…夕方の、モモの散歩」
「…健康な生活やなあ」
電話の向こうで土岐は笑った。
「土岐は」
「ソファに転がって、読書」
「…怠惰な生活だな」
「勉学にいそしんでる、言うてや。……で、窓の外見たら、めっちゃ夕焼けが赤くて、…
…急に」
「人恋しくなった?」
「…みたいやね」
「…それで、俺?」
「…あかん?」
蓬生の声が少し拗ねた。大地は、じわりと温まる胸をそっと押さえる。
「…いや。…うれしい」
…さめれば、恋は終わる。…けれどこの熱が胸に灯る限り、この恋はきっとさめない。
「うれしいよ」
繰り返すと、電話越しに、もうちょい上手に切り返してや、素直すぎてこっちが照れる、
と、動揺あらわな声がぶつぶつと繰り言を言う。…その、少し甘えた響きがうれしくて、
大地は携帯を耳に押し当てた。
彼の言葉をただの一つも聞き逃すことのないように。……全てこの胸で、恋という名の熱
に変わるように、と。