●新しい朝●


優勝の高揚感からだろうか、律はいつもより早く目がさめた。起き上がるとずきりと頭が
痛んで、昨夜のどんちゃん騒ぎを思い出す。パーティー会場だけではことが収まらず、寮
に帰ってきてから寮生も巻き込んでみんなではしゃいだのだ。結局睡魔に負けて、まだ騒
ぐ面々を尻目に先に自室に帰ってしまったが。
ラウンジに転がっているはずの、高校生としては見つかってはまずい物体のことを思い出
し、律は急いで身支度を整えると下へ降りた。
早朝のラウンジは、死屍累々という有様だった。そこここで皆適当にごろ寝している。手
当たり次第に集められたらしい毛布やバスタオルがかけてあるのは、理性が残っていた誰
かの心づくしだろうか。確かにあったはずのアルコールの空瓶の類もきれいに片付けられ
ている。
ほっと胸をなで下ろすと、片隅のソファで誰かが身じろいだ。少し寝癖のついた髪を片手
でくしゃくしゃにしながら起き上がったのは大地だ。
「…大地」
声をひそめて近寄る。寝ぼけ眼の大地は、律を見ると、にこ、と笑った。
「…おはよう、律」
「こんなところで寝ていたのか。…泊まれる空き部屋の場所を、お前は知ってるだろう?」
「酔っぱらって後始末してたら、階段を上がるのが面倒になったんだよ」
「…風邪をひくぞ」
「平気。俺、丈夫だから。…にしても」
鼻をうごめかせて、はあ、と大地はため息をついた。
「…酒くさい……」
「…くさいな」
「……とりあえず、窓を開けて風を通せば何とかなるかな」
「…と思うが……。…それでも、午前中いっぱいは匂いが抜けないかもしれないな」
「…確かに。…ここにいるとまた酔いそうだ」
ううん、と伸びをしてから、大地はソファを降りて律に手をさしのべた。
「…逃げないか?」
「…は?」
「この空気からさ。…逃げよう。いい空気を吸いに散歩に行こうよ。モモもつれてくる」
律はくす、と笑った。
「…名案だな」
ラウンジを出て、深呼吸する。少しひやりと秋の匂いのする風を思い切り吸い込む。
夏の終わりの空は抜けるように青く、君と手をつないで歩きながら見るものは全て美しく
見えた、新しい朝。