●同じ気持ち● 学校からの帰り道、大地と律は少しだけ一緒に坂道を登る。四つ角が来れば大地は自宅へ、 律は寮へと道を分かつのだが、そのほんのわずかな距離が、大地には大切な時間だ。 「明日、試験が終わったらどこか行かないか」 大地の提案に、律は眉を上げた。 「試験は昼までだけど、まだ部活はないだろう。…せっかくだから」 律の反応が薄い。少し不安になって見下ろすと、彼はぽかんと目を丸くしていた。 「昼からもまだ試験があるだろう?」 口にはしないが、大地は違うのか?と不思議そうにしているのが手にとるように伝わって くる声だ。 「実技試験は時間が読めない。早く終わるかもしれないが、もしかしたら時間がかかるか も。…だから、時間を決めてどこかに行くのは難しいと思う」 ………ああ。 「…そっか」 今度は逆に、大地がぽかんとした声を出した。 「……そうか。音楽科には実技があるんだ」 「そう。……そうか。普通科にはないんだな。……それもそうか」 そうかそうか、と互いに少し頷きあって。…大地の胸がほんの少し、ちりりと妬ける。 音楽科と普通科は違う。そのことはわかっていたし、こんなことはひどくささいなことだ けど、それでも、律の当たり前と自分の当たり前が食い違うことが悔しかった。別の学校 に通っているならともかく、同じ学校にいるというのに。 「…すまない。…せっかく誘ってくれたのに」 律がぽつりと言った。 …あ、いや、と大地が応じるよりも早く、白い横顔で少しうつむいて、ため息をつく。 「…つまらないものだな。…同じ学校にいるのに、スケジュールが違うというのは」 「……」 その言葉は、大地の胸にじわりと暖かいものをにじませた。 −…一緒なんだ。 大地がつまらないと思うことを、律もつまらないと思う。普通科と音楽科へのこだわりは、 友達同士で同じ気持ちを分け合える幸せの前に瞬時に消し飛ぶ。 −…同じ気持ちを感じて側にいる。…それはとても幸福なこと。 「…やっぱり明日出かけよう、律」 「…だが」 「何時になってもかまわない。図書館で本を読んで待ってる」 「……」 律は大地をじっと見て、…ゆっくりと笑った。 「……大地が、それでいいなら。……ただ本当に、時間がずれていくとどんどん遅くなっ てしまうんだが」 「かまわないよ。…待つのも楽しいさ」 夕方の光が二人の影を長く伸ばす。ゆっくり登っていく坂道は、もうすぐ四つ角、分かれ 道。