●小春日和● 冬休みが間近に迫った日曜日、昼ご飯の後で、図書館にでも行こうかと、大地が坂道を下 っていると、メールが入った。 見ると、律からだ。件名は、「バイト」。 「……?」 首をかしげつつ本文を読むと、 『バイトを始めようと思うんだが、相談に乗ってもらえないか』 の一言。 大地は二度ほどゆっくり瞬いてから、頬をゆるめ、アドレス帳から律の電話番号を選んで かける。 「…もしもし」 いつもと変わらない冷静な声で律は電話に出た。 「やあ、律。…今どこにいる?」 「寮だ。…大地、その…」 「うん、メールもらったよ」 律が口ごもる気配を察して先回りすると、彼は少しほっとした様子で、そうか、とつぶや いた。 「ただ、俺はまだバイト経験がないけど、そんな俺でも相談にのれる内容かな」 「大地なら大丈夫だ」 根拠なく断言されて、大地は電話越しに忍び笑った。 「時間のあいたときでいい。相談にのってほしい。…頼む」 「律に頼むとまで言われちゃ断れない。…今から寮に行こうか?」 律が一瞬、息を吸って、 「…かまわないが、…この電話は外からだろう?先刻から車が通りすぎるような音がする。 どこかに行く途中だったのなら、その用事をすませてからでかまわない。俺の相談は急が ない」 「家で勉強していても気がのらないから、図書館へ行くところだったんだ。自室でなけれ ば、どこで勉強しても同じだよ」 「…。わかった。じゃあ待ってる」 「ああ」 電話を切って、元来た道を引き返す。途中、ふと、太陽のように明るい山吹色に輝く金柑 の実が目に入った。行きには気付かなかったその美しさにはっとしてから、大地は小さく 笑う。 律の存在を感じる。それだけで全てが新しく美しく見えてくる、小春日和の昼下がり。