●窓から見舞●


「蓬生、本当に大丈夫?」
玄関先でもう一度振り返る母親に、寝床からひらひらと手を振る。彼女は安心したような
安心しきれないような曖昧な顔をして、それでも急ぎ足でパートに出かけていった。
蓬生は吐息をもらし、ころりと布団の中で膝を抱えて丸くなる。家族三人で寝るときは狭
いと感じる六畳間が、一人だとやけに広い。今日で小学校を休むのは何日目だろう。数え
てもらちもないとわかっているのに、指を折りかけたとき、
「つよがってんなあ。さみしいって言ったらいいのに」
笑みを含んだ声がした。
「……!?」
ぎょっとして寝返りを打つと、窓枠に腰掛けた千秋がにやにや笑っている。
「…千秋!?…どっから!」
思わず問うと、
「まずそっからか」
千秋はからりと笑った。
「見ての通り、窓からやけど」
「て、ここ、アパートの二階やで!?」
「たいしたことない。一階のひさしもあるし。これくらい、よじのぼるんすぐやわ。…そ
れより、ベランダの窓あいとったで。用心悪い」
とん、と畳の上に降り立ち、布団で寝ている蓬生の横に膝をついて、こつんと額と額を合
わせた。
「…熱いな」
強い瞳が、案じるようにすがめられる。
「熱あって休んでんねんもん。当たり前や。…それより千秋、学校ある日やろ。朝からこ
んなとこで何しとん」
「そんなん、蓬生に会いに来たに決まってるやん」
「…何も、学校ある日にさぼって来んでも」
「せやかて、土日はおじさんいはるやろ。月木はおばさんがパート休みや。…水曜日の今
日あたり、一番さびしいんちゃうか、て。…それに、前、蓬生に会うてから今日で十日や。
会えんでさびしいん我慢するの、俺、十日くらいが限界やねん」
「…千秋」
…にっ、と千秋は笑う。
「…な。俺、素直やろ。蓬生も俺みたいに素直になり。…何か言いたいことあったら聞く
で」
聞くでというより、言えといわんばかりに耳元に手を当て、耳をすますそぶりをされて、
蓬生は苦笑した。…笑いながら手を伸ばしてそっと彼の耳をつまむと、千秋が身を寄せて
きた。
「…来てくれてありがとう、千秋。…さびしかってん。会いたかった」