●新月闇●


手をつないで歩こうかと提案して、快諾してもらえるような穏やかな関係でないことは、
俺が一番よくわかっている。
けれど、黙り込んで隣を歩く、人形のように白く表情の遠い顔を見ていると、たまらなく
て。……君が思い詰める相手は誰なのかと、わかりきった問いを投げかけそうになるのを
ぐっとこらえて、その代わりに手を伸ばし、強引に手を握った。
「…何」
驚いた声が、それでもとがってはいないことに、俺は少し安堵する。
「街灯が少ない道で、足元が見にくいだろう。…この坂を登り切るまで、手をつないでい
こう」
「………」
土岐は俺を見て、かすかな困惑とともにふいと顔を背けた。
「片方転んだら、もろともやで」
「俺はかまわないよ」
「…っ」
はっと振り返る顔は、泣きそうで、少しだけ甘えも見えて。……もう、人形じゃない。
「いやなら、ふりほどいていい」
「……」
土岐はまた、ふいと顔を背けた。けれど、俺の手を振り払いはしなかった。

新月闇の、深夜零時。伝わる熱を、慈しむ。