●永遠という名の誤解● つまらなそうにコンビニの雑誌の棚を睥睨していた蓬生がぽつりとつぶやいた。 「今時、永遠の愛たらなんたらいうあおりに騙される奴もおらんと思うけどなあ…」 その言葉に、傍らでコピー機を操作していた大地が小さく肩をすくめた。 「…何やのん」 「騙される奴はいなくても、釣れる奴はいるさ」 「…は?」 「永遠の愛がほしくて雑誌を買う人がいなかったとしても、永遠の愛なんて陳腐でくだら ないって思う客の目を引ければそれでいいのさ。…どこかの誰かみたいにね」 「…まるで、自分はひっかからんとでも言いたげやね」 ひくりと口元をゆがめた蓬生に、大地はコピー機の原稿を差し替えながらゆっくりと首を 横に振った。 「そうでもないさ。むしろ逆だよ。俺はどちらかというと、永遠の愛とかいう陳腐なもの を信じるタイプ」 「よう言うてるわ」 「本当だって。…だからここにいるんだろう?」 蓬生ははたと大地を見た。大地は蓬生を見ない。静かな横顔がほんのり朱に染まるのは、 夕方の赤い残照のせいか、それとも。 「……。そら、危なっかしいこっちゃ。せいぜい、悪い奴にひっかからんように祈っとい たげるわ」 「大丈夫だよ、…もうひっかかってる」 「……」 「……」 じわり、蓬生の耳も朱に染まる。 そらした視界の隅で、永遠の文字が笑っている気がした。