洗濯日和 何気なく部屋の扉を開けて、忍人は静かに眉をひそめた。 「…何故、パンツ一枚でつったっているんだ、那岐」 その声がきっかけになったのだろうか。 ぽかんと口を開けて呆然としていた那岐が、突如として機関銃のごとくしゃべり出した。 「僕だって好きでこんな格好してるわけじゃない!千尋が…千尋がいきなり来てっ」 叫び声に、自分の名前を聞きつけて、なあに、と千尋が物干しから顔を出した。 「ああ、那岐を身ぐるみはいだこと?だってこんなにいい天気なんだよー!洗えるものは 全部洗ってしまいたいじゃない?」 忍人は窓の外を見た。白い雲がマシュマロのように一つ二つ浮かんでいるだけの、桔梗色 に澄んで青い空。秋晴れの今日は、確かに絶好の洗濯日和だ。 「それに、別に裸でいなさいなんて言ってないもん。脱がされたら自分で何か着ればいい じゃない」 「女の子に無理矢理脱がされた衝撃から立ち直れなくて、ぼうっとしてたんだ!忍人だっ て、いきなりベッドで千尋にパジャマを奪われたらこうなるよ!」 「……」 「……」 忍人と千尋は顔を見合わせ、 「…や、その仮定はあり得ない」「でしょ」 声を揃えて、二人で首を横に振った。 「お兄ちゃんはうちで一番早起きだし、起きたらすぐに身支度を整えるし」 「休みの日だからといって、パジャマのまま起きてきて、そのままもう一度寝直したりも しない」 「……」 言い返せない那岐が歯がみしていると、 「にぎやかですね、何の話?」 とんとんと階段を上がってきた風早が那岐を見て、 「あ、那岐、パンツ一丁」 と言った。 「……うわーん!!」 那岐は半泣きになりながら、ばたん、と部屋の扉を閉めた。風早の一言がだめ押しになっ たらしい。 着替える隙を与えずに話しかけていた自分にも多少の責任はある。忍人は首をすくめた。 今日の食事当番は自分だ。何か一品、那岐の好物でも作ってやろう。 空はどこまでも青く高く、太陽は穏やかな秋の日に笑っているようだった。