天然

大根を切っていて、目測を誤った。
「あいて」
小さなつぶやきのつもりだったのに、隣の居間で洗濯物をたたんでいた千尋がぱたぱた立
ってきた。
「どうしたの?指切った?」
言うが早いか那岐が押さえている指をぱくりとくわえた。
「…!」
とっさのことで那岐が突っ込みも何も出来ないでいると、千尋は唇を離して首をかしげ、
「血、止まらないね。結構深いね」
言って、またぱたぱたと奥へ入っていった。救急箱でも捜しに行ったのだろう。
入れ替わりのように、玄関の戸が開く音と「ただいま」という声がして、ひょいと忍人が
台所を覗いた。
指を押さえてぽけらとしている那岐を見て眉を寄せ、
「切ったのか」
つかつか近づいてきて傷を見るなり、すっと口に含んで吸った。
………。
那岐はがくりと肩を落とした。耳が熱い。たぶん赤い。
「…那岐?」
奥から千尋が戻ってくる。
「絆創膏あったよ。…どうしたの?」
ぶんぶん、と那岐は首を横に振って。
「僕は、今日の今日まで、忍人と千尋は似たところ一つもないと思ってたけど、たった今
一つ見つけた」
「…は?」
「なあに?」
きょとんとしている顔を二つ見比べて、那岐は大きなため息をついた。
「…なんでそんなに天然なんだ、二人とも…」
二人は顔を見合わせ、また首をかしげる。その角度まで同じだ。
…無自覚はたちが悪い、としみじみ思う那岐だった。