11年11月11日11時11分11秒 「榊くん?…先刻から何見とん?…ケータイ?」 「ケータイっていうか、スマホの時計アプリだね」 大地の返事に、蓬生は露骨に顔をしかめた。 「うわ、気ぃ悪。…人とおる時に時計ばっかり気にする奴てサイテーやろ」 「わかってるよ、悪いと思ってるよ。…でもさ、もうすぐ…」 「……?」 その言葉に首をかしげた瞬間、 「11年の、11月、11日、11時、11分!」 勝ち誇ったように大地に宣言されて、蓬生は思わず吹き出した。…ところに、追い打ちを かけるように、 「11秒!」 またうれしげに付け加えたので、なおのこと蓬生は笑った。 「阿呆か?阿呆やろ?」 「うるさいなあ。いいだろ、一生の間でそう何回もあることじゃないんだから、こんなぞ ろ目。楽しまなきゃ」 「わけわからんわ。楽しいか?」 止まらない笑いに喉を鳴らしていた蓬生は、ようやくゆっくりと息を吐いた。 「……土岐?」 「……ああ、もう、……ほんっま、阿呆」 肘をテーブルにつき、掌で額を支えてうつむく。 「阿呆阿呆って、連呼しないでくれないか」 大地が少し口を尖らせると、 「…今のは、君のこととちゃうよ。……俺や」 「……?」 ゆるゆるとあげられた蓬生の顔は、静かに微笑んでいた。 「どうでもいいような変なとこに必死でこだわって、勝ち誇ったような顔した君を、かわ いい、て、思うやなんて。……俺の脳みそもどないかしたなあ、阿呆やなあ、って」 「……っ」 思いがけない蓬生の言葉に一瞬大地が喉を詰まらせると、まるで追い打ちをかけるように、 蓬生がつぶやいた。 「…好きやで」 言って、笑む。…その照れたような眼差しにひそむ、熱。 「……」 大地は前に置いてあったコーヒーを飲み干し、レシートを手に立ち上がった。 「…もう出るん?」 「ああ」 「せっかちやなあ」 「せっかくの誘いには、のっておこうと思って」 大地の動きに合わせ、立ち上がろうと腰を浮かせた蓬生が、一瞬ひたりと動きを止める。 「……何のことや」 「……さあね」 熱を帯びる蓬生の瞳を鏡に映したように、大地の目も熱っぽい。 蓬生は低い声で言った。 「…俺は何も、誘ったりしてへんで」 「それはどうかなあ。……まあ、いいけど」 くす、と小さく大地は笑って。 「とりあえず、テーブル越しよりももう少し近づけるところに行かないか。……それから じっくり話せばいい」 「何を」 「誘ったのはどちらからかを、さ」 じわり、コーヒーの温もりよりも熱いものを、二人して身のうちに抱えて。 ……ここからは、勝負。