やきもち


日曜の夕方、モモを連れてのんびり散歩していたら、角を曲がったところで財布を握った
律と出くわした。
「あれ、律。…買いだし?」
「ああ、日曜は寮食がないから。…大地は散歩か」
「見てのとおりね」
律はにこりと笑うと腰をかがめて、やあ、とモモを撫でようとした。…が、モモは小さく
うう、とうなる。
「…嫌われたかな」
苦笑で立ち上がる律に、少し申し訳なく思いながら俺は首を振った。
「ごめん、割と人なつっこいほうなんだけどね。俺が足を止めてるから、機嫌が悪いんだ
よ」
「ああなるほど。…じゃあ、散歩を続けてあげてくれ。俺はこっちだから」
あっさり言って立ち去ろうとする律に、俺は慌てる。
「待って、律。…よかったら、途中まで一緒に行ってもいいかな」
律はきょとんとした顔で振り返った。
「俺はかまわないが、…大地は元来た方に戻ることになるんじゃないか?」
「いいんだ」
リードを引くと抵抗があった。モモが足を踏ん張っている。俺は振り返り、律もまじまじ
とその様子を見て。
「……モモはよくなさそうだが」
冷静な指摘。
「……。…いいんだ」
ごめん、モモ、と思いながらもう一度リードを引くと、しぶしぶ、という様子でモモは俺
について歩き出した。
律は、困ったなという顔で俺とモモを見比べていたが、俺が促すように一歩先を行くと、
ため息混じりで苦笑して、…そっと隣に肩を並べる。
「これでもっとモモに嫌われた気がする」
…な、と律がのぞき込むと、モモはかまわれて嬉しいような、でもちょっぴり悔しいよう
な顔をして律を見上げた。
……本当はね、律。モモが一番嫌がっているのは、俺が足を止めたことでも、元来た道を
戻ることでもないんだ。
律といると俺が律ばかり見るのが嫌なんだよ。やきもちだ。……女の子だからね。